思い出の味を辿れば、様々なつながりが見えてくる
昨年の秋からつい最近まで、店頭に並ぶ干しイモに、ひどく悩まされました。
晩年になると、誰もが幼い頃に刷り込まれた味覚に戻っていくようなところがありますが、昨年、87才で他界した父もサツマイモが大好物でした。食糧難の頃にそればかり食べたというので、もう見たくないという方も多いサツマイモですが、父はその逆で、甘味に餓えた時代の、“世の中に、こんなにおいしいものがあるのか”という感動が強烈だったのだと語っていました。
活動的な父が、最晩年は膝や腰を傷めて思うように動けませんでしたが、各地の干しイモや長崎のカンコロイモを携えていくと、それは嬉しそうに炙って食べてくれました。そのせいで、スーパーなどで干しイモが目に入る度、その生き生きとした姿が浮かんで、しんみりさせられるのでした。
1年が経過し、ようやく干しイモにも耐性がついてきたこの頃ですが、今度は、60年来の連れ合いを失って間もなく、両方の大腿骨を数ヵ月の間に骨折、それでも前向きにリハビリ生活を送る母の日常を、どんな思い出の食が少しでも楽しませてくれるのか、と、姉妹と思案する日々です。
忘れられない食の思い出をたどることは、私たちと様々な人とのつながりやルーツ、心の奥底に隠れた秘密を再発見する作業でもあります。近頃、楽しいことも少なくなった、ドキドキしないと感じている方はなおのこと、一度、思い出の食を振り返ってみてください。自分でも気づいていなかったような人生の宝物に出会えるはずです。
島村菜津
しまむら・なつ 1963年長崎県生まれ、福岡県育ち。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、イタリア各地に滞在しながら雑誌に寄稿。98年『エクソシストとの対話』で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。著書に『スローフードな人生!』『生きる場所のつくりかた 新得・共働学舎の挑戦』、共著に『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』など。